KNOT & MILE← ジャーナル

作り手を訪ねて ・ ITALY, SALERNO

Bossa — サレルノの路地で出会った、革の職人

工房で迎えてくれた、革職人のアルベルトさん
工房で迎えてくれた、革職人のアルベルトさん

アマルフィ海岸の玄関口、サレルノ。華やかな観光地の路地を一本入ると、そこにはガイドブックに載らない、静かな手仕事の世界が広がっていました。革の匂いと、ハンマーの規則正しい音。ふらりと立ち寄った小さな工房で、私たちは忘れられない作り手に出会います。

気さくでダンディーな、革の職人

工房の主は、アルベルトさん。白いシャツにメガネ、ロマンスグレーの髭がよく似合う、なんともダンディーな方です。突然たずねた私たちを、彼は嫌な顔ひとつせず、むしろ楽しげに手招きしてくれました。「見ていきなよ」と言わんばかりに。

店の名は「Bossa」。イタリア語で職人を意味する“アルティジャーノ(Artigiano)”——アルベルトさんは、その言葉をそのまま絵に描いたような人でした。

手仕事の現場

壁一面に吊るされた革ベルト、棚に並ぶバッグや財布。ミシン、プレス機、旋盤——年季の入った機械たちが、いまも現役でずらりと並びます。雑然としていて、けれど、すべてがきちんと使い込まれている。ここは“生きた”仕事場でした。

旋盤や道具に囲まれた、味わいのある仕事場
旋盤や道具に囲まれた、味わいのある仕事場

自分だけの一本が生まれる場所

Bossaは、工房であると同時に、小さなお店でもありました。壁に並ぶのは、色も形もさまざまな革ベルト——赤、黒、キャメル、ネイビー。ここでは、お気に入りの一本を選ぶところから買い物が始まります。

まずは革ベルト選び。私たちは、鮮やかな赤に心を奪われました。次に選ぶのは、バックル。シンプルなものから存在感のあるものまで、いくつも並ぶ中から、自分の好みで組み合わせを決めていきます。

最後に、ウエストを採寸。アルベルトさんが革に印をつけると、迷いのない手つきでハンマーを振り下ろします。コン、コンと小気味よい音を立てながら、その場で穴を打ち抜いていく——それは、既製品にはない、特別な時間でした。

採寸した位置に、その場で穴を打ち抜いていく
採寸した位置に、その場で穴を打ち抜いていく

そうして仕上がったのが、この赤いベルトです。裏返せば表情が変わるリバーシブル仕様で、選んだ銀のバックルが全体を引き締めます。断面まで美しく磨かれていて、手仕事の丁寧さがそのまま伝わってきました。世界に一本だけの、自分のためのベルトです。

生まれる、革の作品

そしてもうひとつ、出会いがありました。ヴィンテージ調の茶色い革トートバッグです。使い込むほどに味が出そうな、あたたかい風合い。真鍮の金具が、ほどよいアクセントになっています。

バッグに縫い付けられたタグには、こうありました——「bossa & FERDINAND VINTAGE / PRODOTTO ARTIGIANALE / ITALIA」。イタリアの、正真正銘の手工芸品。作り手の名前が、そのまま品質の証になっています。

「PRODOTTO ARTIGIANALE / ITALIA」——イタリア手工芸品の証
「PRODOTTO ARTIGIANALE / ITALIA」——イタリア手工芸品の証

ガイドブックに載らない、本物の出会い

有名な観光地の、その裏通り。ふと足を止めた小さな工房に、こんなにも豊かな時間が待っていました。作り手の顔を見て、手の動きを眺め、言葉を交わす——それは、個人の旅だからこそ味わえる贅沢なのだと思います。

サレルノを訪れることがあれば、ぜひ、路地の奥にも目を向けてみてください。思いがけない出会いが、静かにあなたを待っている——

訪ねた街、サレルノ

「Bossa」があるのは、イタリア・アマルフィ海岸の玄関口、サレルノの街。華やかな観光地から少し足をのばした、路地の奥です。

イタリア・アマルフィ海岸のサレルノ周辺(Google マップ)

あわせて読みたい

同じイタリア・アマルフィ海岸で、陶器の街を訪ねた記録もあります。ビエトリ・スル・マーレ — 陶器の街で、作り手に出会う